とてつもない才能が現れましたよ!
「長谷川白紙」という人を食ったステージ・ネームは、
「長谷川博士」の変換まつがいなんすかね?
冗談はともかく、これが20歳の作品というんだから、もう、頼もしすぎる。
日本のポップス・シーンにパラダイム・シフト起こす、
異能のシンガー・ソングライターの登場です。
待ってましたよ、こういう有無を言わせぬ圧倒的な才能が出てくるのを。
1曲目の、ビッグ・バンドのホーン・セクションがフリーキーに炸裂するイントロから、
はや白旗を上げてしまいました。
一聴、エクスペリメンタルでアヴァンなセンスに、
とてつもないヒラメキを持っていることは、すぐ気付けますけれど、
何度も聴き込んでいくうちに、楽曲やビートがとてつもない高精度で
作り込まれているのがわかり、もう驚愕するほかありません。
変則的なコード進行、いびつなハーモニー、不協和な音使い、
ジェット・コースターのような曲構成、それらの要素をDAWにぶち込みながら、
難解になりすぎる手前でそっとポップなフックを置くという、
ポップスとしてギリギリ成立させる手腕に舌を巻きます。
ドリルンベースのカオティックなビートが、かくも肉感的に響くのにも、衝撃を受けました。
電子音楽に関心のない当方を、これだけ惹きつけてやまないのは、規格外の証しでしょう。
石若駿(ドラムス)や川崎太一朗(トランペット)を起用したトラックがあるとおり、
電子音楽ばかりでなく、現代ジャズと呼応した音楽性の持ち主でもあるんですね。
ボリリズムやメトリック・モジュレーションを駆使する技術力の高さは、
この人、ぜったいアカデミックな教育を受けているだろと思ったら、
なんと現役音大生なんですと。
だよねぇ。天才的なセンスだけでは到底獲得できない、
確かな技術力に裏打ちされているんですね。
現代音楽、ジャズ、テクノを自在に横断して、
これほどしなやかで、軽やかなサウンドスケープを構築してみせる恐るべき才能。
従来の日本のポップスの水準を無効にしてしまう破壊力が、彼の音楽にはあります。
でも、その破壊力が、ぼくには痛快でなりません。
日本の将来について、やたらと悲観的なことばかり言う御仁が多いのに、
日頃うんざりしてるんですけど、長谷川白紙に出会って、
日本の未来は明るいと、ぼくは確信しましたね。
折坂悠太や中村佳穂が出てきた1年前あたりから、
日本のポップス・シーンに革命が起きているじゃないですか。
こんなスゴイ若者たちを目撃しても、将来が暗いなんて世を憂えてる老人は、
さっさとくたばっちまえばいいんですよ。
長谷川白紙 「エアにに」 ミュージック・マイン MMCD20032 (2019)