書店で見つけた『ショーロはこうして誕生した』という新刊書。
ついに日本でもショーロの本が出るようになったのかと、じ~んとなっちゃいました。
ブラジルで出版された本の日本語訳で、
題名の上に書かれた“O Chôro” の文字にピンときましたよ。
これって、去年ブラジルのアカリ・レコードが復刻した本なんじゃないの?
本をめくり、訳者あとがきをみてみたら、ピンポ~ン♪
原書は、1936年にリオ・デ・ジャネイロで出版された本です。
アカリがCD付で復刊したとはいえ、ポルトガル語じゃ読めないよと
手を伸ばせずにいたので、嬉しさ倍増であります。
リオの下町で演奏していたショローンたちを点描した、
郵便配達夫でショーロ演奏家だったリオのギタリストによる口述本。
ラセルダ、ナザレー、ピシンギーニャといった大物も登場するものの、
有名人も無名の演奏家たちも分け隔てなく語られています。
邦題の「…こうして誕生した」は内容と合っておらず、
原書の副題「昔のショローンたちの思い出」にすべきだったと思いますが、
20世紀初頭のリオ下町の風俗が、いきいきと描き出されています。
聞いたことのない人名や地名が次から次に出てきて、
百年前のリオの風物を想像たくましくしながら、読みふけってしまいました。
こんなにわくわくしながら頁をめくったのは、ひさしぶりのことです。
近年日本のブラジル音楽書で一般的になってしまった、
Rのハ行読みや、di, de の正書法にない「ヂ」使い、’-l’ を「ウ」と書いたりするような
気取ったカナ表記が出てこないところも、好感度大でした。
「ローダ」だけ、なぜか「ホーダ」と書いているのが残念でしたけれども。
ピシンギーニャと交流のあったフルート吹きのカルロス・エスピンドーラに話が及んだところで、
エスピンドーラの娘のアラシ・コルテスについて、こう書かれていました。
「ブラジル全土の劇場を満員にし、その美貌と喉で市民を魅了し、海外でも成功を収めた」。
懐かしくなって、久しぶりにアラシ・コルテスを聴き返してみたら、
これがピタリとツボにはまり、最高のBGMになってくれました。
アラシ・コルテスは、サンバ・カンソーンを初めてレコーディングした女性歌手です。
29年3月に録音されたサンバ・カンソーン第1号曲「美しい花」“IAIÁ (Ai ioiô)” ほか、
その前年28年11月に録音されたサンバ王シニョーの名曲“Jura” や、
30年録音のアリ・バローゾ作曲のエキゾティックなバトゥーキ“No Morro ” を
フナルチ盤(CDはアトラソーン)で聴くことができます。
17歳で家を出てサーカスで歌い踊り、やがて劇場に進出して名声を得たアラシ・コルテスは、
劇場がメディアだった最後の時代の歌手ともいえ、
芝居っけたっぷりのチャーミングな歌いぶりに、
舞台女優/ミュージカル歌手らしい魅力が溢れています。
劇場からラジオへとメディアが移り変わり、サンバが爆発する30年代に入ると、
コケットリーなカルメン・ミランダが大活躍するのも、
アラシ・コルテスという下地があったからこそという気がしますね。
そんな華やかな芸能を支えたのは、街角に大勢のショローンたちがいたからこそ。
サンバの伴奏を支えていたアマチュアの彼らが、
街角でどんな生活を送っていたのかを、この本は教えてくれます。
[LP] Araci Cortes "ARACI CORTES" Funarte 358.404.004
Araci Cortes "ARACI CORTES" Atração ATR32051