入退院を繰り返しているとのニュースに心配していたジルベルト・ジルでしたけれど、
18年に4年ぶりのアルバム“OK OK OK” を出してくれて、ホッとひと安心。
新作リリースまもなくレコーディングにとりかかっていた、
異色の新作がリリースされました。
「異色の」というのは、ダンス・シアターのためのサウンドトラックだからです。
そのダンス・シアターとは、75年に設立されたグルーポ・コルポ。
ダンスと演劇の境界を取り払って、従来のモダン・ダンスを超えた
新しい表現を求めるグルーポ・コルポは、
すでにミルトン・ナシメントやカエターノ・ヴェローゾとも
コラボレーションを重ねてきた、前衛的なダンス・シアターです。
今回、グルーポ・コルポの芸術監督パウロ・ペデルネイラスが
ジルベルト・ジルに依頼したプロジェクトは、
アフロ・ブラジリアン宗教音楽に根差したバイーアのアフロ・ブラジル音楽の要素を、
ダンスに反映させたもの。
そのものずばり“GIL” と題されたこのアルバムには、
1分弱から6分を超す長短含める16曲を収録。もちろん全曲ジルの自作です。
ジルはギターとスキャットなどのヴォイスで参加していて、
プロデュースはジルの息子のベン・ジルが担当。
もちろんエレクトリック・ギターも弾いています。
ドメニコ・ランセロッチがドラムス、パーカッションの生演奏のほか、
サンプラー/シーケンサーのMPCを駆使したサウンドを作っていて、
ダニーロ・アンドラージの鍵盤とともに、かなり電子音楽寄りのサウンドを構築しています。
そこにバラフォンを使ったインタールード的な短い曲が差し挟まれたり、
ショーロをベースとしながら、コズミックなスペイス・ミュージックへ反転するような
シアトリカルな曲など、なるほどダンス・シアターのサウンドトラックらしい曲が並びます。
いずれもエレクトロニックなサウンドに仕立てられているものの、
そのベースとなるのは、まぎれもなくバイーアのアフロ・ブラジリアン・ミュージックで、
ジルベルト・ジルの音楽性が存分に発揮されているんですね。
サウンドトラックという場を借りての実験的な試みは、旺盛な創作意欲の表われで、
ヴェテランにしてこの攻めの姿勢に、やっぱジルはスゴイと、感嘆するほかありません。
Gilberto Gil "GIL (TRILHA SONORA ORIGINAL DO ESPETÁCULO DO GRUPO CORPO)" Grupo Corpo GC22 (2019)