セネガルのヒップ・ホップ・デュオ、ダーラ・J・ファミリーの新作。
メンバーの一人、ファーダ・フレディが15年に出した“GOSPEL JOURNEY” は、
アフリカン・ポップスに新しい地平を切り開いた画期的な作品でしたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-04-02
今作は、3人組のダーラ・J時代から変わらない、
ポップ・センスに富んだヒップ・ホップを聞かせてくれます。
エンターテインメント性に富んだカラフルなプロダクションと、
ウォロフ語で「学校」を意味する「ダーラ」の名のとおり、
若者を啓蒙する教育的な姿勢を両立させる手腕が鮮やかで、
完成度の高さに圧倒されました。
まず目を奪われるのが、ジャケットのイラストレーションです。
たくさんのブラウン管テレビが廃棄されたバオバブを背に、
スマートフォンを夢中でいじっている少年たちが描かれています。
かつての夕暮れどきなら、熱いお茶を入れる中央の男のまわりに集まり、
語らいが生まれる場であるはずが、いまや語らいはSNSの検索に置き換わっています。
バオバブの木の枝には、寄生虫のようにスマートフォンがつるされ、
携帯電話やPCなどデジタル・デバイスの中毒性を告発しているのです。
アルバム・タイトルのYaamatele は、お腹がテレビ画面になっているロボットの名前で、
80年代の人気漫画のキャラクターだそうです。
ロボットは映画のリールを呑み込み、お腹の画面にサッカーの試合を映し出します。
ネット社会がすべての人間の活動をデジタル化していくなかで、
人々は生きていることすら忘れてしまい、
SNSの膨大な情報によって、戦争や死や貧困にますます鈍感になっていく、
人間性の喪失をテーマとしています。
いまや世界を支配するのは政治家でなくSNSであり、
トランプがそうしたように、SNSが権力を握るための兵器となっているのだと、
ファーダ・フレディは警鐘を鳴らします。
その‘Yaamatele’ は、ブルンディ出身のフランスのラッパー、
ガエル・ファイユとの共作で、ガエル自身も参加していて、
グローバリゼーションの暗部を突き刺しています。
こうした社会的な問題を若者に意識づけさせるために、
ストリート・スラングの漫画のキャラクターを使ったり、
巧みなサウンド・プロダクションを施して若いリスナーの関心を集め、
人生における教訓や道徳を説く教師の役割を果たしています。
それはかつてグリオが担ってきた役割であり、
彼らこそ「現代のグリオ」と呼ぶべき存在でしょう。
オープニングの‘Tchékoulé’ は、日本でもよく知られている
ガーナの子供の遊び歌の‘Kye Kye Kule’。
セネガルのみならず、アフリカで広く親しまれるメロディをトップに持ってくるとは、
ポピュラリティーをつかむ彼らの感度の良さだなあ。
メロディアスな歌ものの‘Adn’ あり、ジェイジザのセンスのいいビートメイキングが光る
アフロビーツの‘What's Up’ ‘Tek-Tek’あり、高速ラップが聴きものの‘Chaka Zulu’、
コラをフィーチャーしたラスト・トラックの‘Oyé’など、
曲ごとに趣向をこらしたサウンドは、片時も退屈な瞬間を与えません。
どこからもスキのない見事な出来ばえは、アフリカのポップス職人の成せる業です。
Daara J Family "YAAMATELE" Caroline/Think Zik ! no number (2020)