今回のジスコベルタスのリイシュー・カタログで、
一番のディスカヴァリーが、このサンドラでした。
このレコードはおろか、名前も初めて知った人ですけれど、
61年に出たこのアルバム、ビッグ・バンド・サウンドにのせて歌う、
表現力豊かな歌唱力に驚かされましたよ。
いやぁ、すごい歌唱力じゃないですか。
この人はジャズ・シンガーといっていいでしょうね。
リズムのノリがバツグンに良くって、歌詞を転がしながら、
ハネるように軽くスウィングする歌い口が、絶妙です。
語尾をソフトに伸ばしたり、キレのよいスタッカートを聞かせたりと、
とにかく表現力が豊かで、舌を巻きました。
バックのビッグ・バンド、オルケストラ・モデルナ・ジ・サンバスの演奏も一級で、
軽やかなサンバのリズムにのるホーン・セクションもスウィンギーなら、
マルコ・ルッピのテナー・サックス・ソロも鮮やかです。
ジャケットに「バランソの声」と書かれているとおり、
これはサンバランソのお手本といえる演奏ですね。
ラストのネウトン・メンドンサ作の‘Nuvem’ のみ、
ピアノ・トリオをバックに歌ったスローなサンバ・カンソーン。
一部に音ゆれがあるのが惜しまれますけれど、
なんでもこのサンドラというシンガーは、ネウトン・メンドンサの
お抱えシンガーだったようです。
ネウトン・メンドンサは、アントニオ・カルロス・ジョビンと「ジザフィナード」はじめ、
多くの曲を共作したことで知られる、ボサ・ノーヴァ史の重要人物です。
サンドラのバイオを調べてみたところ、
コパカバーナのナイトクラブで活躍したシンガーで、
ジャルマ・フェレイラのナイトクラブ、ドリンキと縁が深かったようですね。
オルガン奏者セルソ・ムリロ率いるコンジュント・ドリンキのアルバムにも
サンドラがフィーチャリングされていますけれど、
ソロ・アルバムはこの一作だけだったようです。
ちなみに、CDには62年作のクレジットがありますが、これは61年の誤り。
サンドラは本作で61年のレコード批評家協会の新人賞を受賞しますが、
授賞式が行なわれた12月のわずか数日前に、交通事故で亡くなってしまったそうです。
全12曲、わずか27分に満たない収録時間ですけれど、
これは知られざるサンバランソの傑作といえるんじゃないでしょうか。
Sandra "SAMBA 35MM" Discobertas DBDB026 (1961)