SNS世代を象徴するかのような鮮烈なデビューを果たした、
自分のベッドルームをスタジオにするロンドンの音楽家、トム・ミッシュの新作が面白い。
18年の話題作“GEOGRAPHY” の非凡ぶりには、ぼくも舌を巻きましたけど、
新作はユセフ・デイズとの共演作で、ブルー・ノートから配給されるというニュースに、
どんな作品なのかと、聴く前からワクワクしていました。
ユセフ・デイズは、鍵盤奏者のカマール・ウィリアムスと、
ユセフ・カマールというユニットで活動しているドラマー。
ユセフ・カマールでは、ブロークンビーツやダブステップ、グライムを、
生演奏に置き換えた音楽をやっていて、ぼくにはUKジャズのドラマーというより、
クラブ・ミュージック通過後のクロスオーヴァー感覚を持ったセッション・ドラマー
というイメージがあります。
ビートメイカーでもあるトム・ミッシュとのコラボは、
ビート・ミュージックになるのかなと思ったら、
かなり繊細に組み立てられた仕上がりを見せていて、
ビート・ミュージックのセッションといったラフさはどこにもありませんね。
全体にメランコリックなサウンドとなっているのが特徴で、
多幸感に溢れた“GEOGRAPHY” とは対照的な、
グルーミーな世界を生み出しているのが新鮮です。
ユセフ・デイズのアナログ感いっぱいのドラムスは、
音色や音質も、UK独特のセンスを強く感じさせます。
スネアのロールやフラムなんて、トニー・アレンを思わせるところもありますよ。
ベースのロッコ・パラディーノが加わったトラックでは、
レゲエ/ダブのニュアンスがぐっと前に出てきますね。
キックを含む低音域がファットで、スネアのちょっと詰まったような音色が耳残りします。
シンバル系の高音が広がらないようにして、サウンド全体をコンパクトに収めているので、
クラブ・サウンドのトラックメイクに近い感覚で聞けます。
アメリカのヒップ・ホップやR&B流れのグルーヴ感たっぷりなドラミングとは、
まったくタイプが違いますね。
トム・ミッシュならではのドリーミーなサウンドと混じり合って、
この二人ならではのケミストリーが生まれているところが妙味。
トムのメロディアスな才能と、ユセフが持つUKブラックのクラブ・サウンドが、
絶妙なバランスをみせています。
ベッドルームから外の世界に飛び出た若き天才は、ワールド・ツアーも成功させましたが、
新たな変化を求めてチャレンジしたコラボレーションは、トムに自信を与え、
さらなる音楽領域の可能性を広げたのではないでしょうか。
Tom Misch & Yussef Dayes "WHAT KINDA MUSIC" Beyond The Groove/Blue Note 2812124273 (2020)
Tom Misch "GEOGRAPHY" Beyond The Groove BTG020CD (2018)
Yussef Kamaal "BLACK FOCUS" Brownswood Recordings BWOOD0157CD (2016)