トルコ北東部の黒海沿岸に、
ヘムシンというアルメニア系の少数民族が暮らしていることを、初めて知りました。
少し調べてみたところ、ヘムシン人はアルメニア系といってもキリスト教徒ではなく、
イスラム教徒だというところに、文化的なアイデンティティをうかがわせます。
ヘムシン人グループのヴォヴァが05年に出したデビュー作は、
世界で初めてヘムシン語で歌われたアルバムだったそうで、
そんなエピソードが、ヘムシンがトルコだけでなく、
アルメニアにおいてもマイノリティであることを示していますね。
ヘムシン語は、ユネスコが消滅危惧言語として指定している言語で、
ヴォヴァはヘムシン語やヘムシンの歌を保存する目的で、
ユネスコの後押しを受けて結成されたグループなのだそうです。
本作は、デビュー作から14年を経て出された2作目。
聴いてみたところ、これがなんとも複雑な出自をうかがわせる音楽で、
この音楽がいったいどこからやってきたのか、がぜん興味がわいたのでした。
ヴォヴァのメンバーが演奏している楽器をみると、ギター他弦楽器、フィドル、
ベース、チェロ、アコーディオン兼ピアノ、縦笛、クラリネット、ドゥドゥック、
トゥルム、ケマンチェ、パーカッションがクレジットされています。
また、ヘムシン・カヴァリと書かれた縦笛は、おそらくブルガリアなどで
広く使われる羊飼いの笛、カヴァルと同じタイプの楽器と思われます。
わざわざ「ヘムシンの」と付記しているところは、
カヴァルとはなにか違う特徴があるのかもしれません。
このほか、ギタリストはトルコのリュート、ラウタも演奏していて、
フィドル奏者は、アゼルバイジャンやジョージアの撥弦楽器のチョングリや、
ジョージアの3弦楽器、パンドゥリも弾いています。
こうした楽器編成からも、ヴォヴァは、アルメニアばかりでなく、
アゼルバイジャンやジョージアといった
南コーカサス地方の音楽を、広く受け継いでいることがわかります。
歌を聴いていると、ハーモニー・コーラスなどにアルメニアらしさも感じられる一方、
ジョージアのポリフォニーを思わせる(あれほど複雑じゃないが)ところもあったり、
リズムにはホロンの影響がみられるなど、
この音楽を読み解くのは、ちょっと容易じゃありません。
トルコの少数民族が南コーカサス地方の豊かな音楽遺産を織り上げた、
これはたいへんな力作ですよ。
Vova "GARMİ DOÇ" Ada Müzik no number (2019)