フィールド・レコーディングの民俗音楽のレコードは別として、
いまだポップスのレコードを1枚も聴いたことがないという国が、アフリカにはあります。
そのひとつが、77年にフランスから独立したジブチ。
ソマリア、エチオピア、エリトリアと国境を接し、
ソマリ人系のイッサ人が多く暮らす国なので、
ソマリ・ポップスに近い音楽がありそうな予感はするものの、
情報がまったく伝わってこない、長年ナゾの国なのでした。
今回ヴィック・ソーホニーが主宰するオスティナートから出たグループRTDは、
世界に向けて出されたジブチ初のポップスのレコードで、これは画期的です。
オスティナートがこれまで出してきた作品は復刻ものばかりで、
初の新録となったわけですけれど、そのきっかけは、
70~80年代のソマリアの音源を復刻した“SWEET AS BROKEN DATES:
LOST SOMALI TAPES FROM THE HORN OF AFRICA” の制作だったようです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-09-10
ソマリ・ポップの音源調査にあたり、ジブチまで足を伸ばし、外国人として初めて
国営ラジオ放送局のアーカイヴの使用許可を得たヴィック・ソーホニーたちは、
アフリカでもっとも保存状態の良いテープを、ジブチで目の当たりにしたといいます。
と同時に、それらのアーカイヴを生きた形で体現しているバンドが、
隣のレコーディング・スタジオで演奏しているとあっては、
ぜひ録音して、自分たちのレーベルから出したいと考えるのも、そりゃ当然ですね。
しかし、独立以来、事実上一党支配のジブチでは、
すべてのバンドは国家の統制化に置かれ、民間のバンドは存在しないという、
特殊事情のお国柄。国営ラジオ放送局 Radiodiffusion-Télévision Djibouti 専属の
グループRTDは、国家のプロパガンダ装置の最重要バンドであり、
その録音の許可を取るまでの交渉が生半可ではなかったろうことは、
容易に想像つきます。
グループRTDは、男女歌手3名に、サックス、ギター、キーボード、ベース、ドラムス、
ドゥンベクの9人編成。老練なヴェテランから、新進気鋭の若き才能までが揃います。
国家的な式典で演奏することを主な活動として、
昼間は大統領が出席する国家的セレモニーやイヴェントに出演し、
外国の要人を歓迎するためなど、公務で演奏しているとのこと。
そのグループRTDの録音の許可が与えられたのは、たったの3日間。
スタジオには、何十年も昔の機材しかなく、防音性の低い環境のために、
高性能マイクや最先端のレコーディング機材を持ち込む必要があり、
官僚主義と厳格なルールと格闘しながら、ジブチの税関長の協力を得て、
ようやく実現したそうです。
ソマリの伝統リズムを強化したドゥンベクとリズム・セクションのグルーヴにのる、
ボリウッド・スタイルの男女ヴォーカルの取り合わせが、妙じゃないですか。
レゲエの影響を受けたオフ・ビート、スーダン歌謡に通じるアルト・サックスのリフ、
アラブのポップスのサウンドを取り入れたシンセサイザーなど、
多彩なミクスチャーが施されたジブチのポップス、魅惑的です。
Groupe RTD "THE DANCING DEVILS OF DJIBOUTI" Ostinato OSTCD009 (2020)