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スタンダードを悪戯に料理 サム・ゲンデル

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Sam Gendel  SATIN DOLL.jpg

うわー、とんでもないね、こりゃ。
とてつもなく革新的なスタンダード集で、
さすがのスタンダードぎらいのぼくも、これには降参です。

エクスペリメンタル・ヒップ・ホップを経た音響的なアプローチで、
現代的に解釈したジャズ、といえばいいんでしょうかね。
でも、そうまでして、なぜ「スターダスト」や「サテン・ドール」なんてダサい素材を
選ぶ必要があったのかという疑問は、残りますねえ。
じっさい本人のオリジナルも4曲あるくらいなのだから、
全部オリジナルでやればいいのに。

ロス・アンジェルスの奇才サム・ゲンデルの新作。
シンガー・ソングライターとばかり思っていたら、とんでもない。
いろんな顔を持つマルチ奏者だということを、今頃知りました。
このアルバムではサックスを吹き、ベースとエレクトリック・パーカッションの3人で、
たったの二日半でレコーディングを終えたそうです。

リハーサルを積み、プリ・プロにも時間をかけて、なんて録音とは真逆の、
ささっと制作したところが功を奏したアルバムに思えますね。
おそらくこの選曲も、本人にそれほど深い思い入れがあるわけではなく、
単なる思い付きというか悪だくみというか、
イタズラっぽいフットワークの良さをおぼえます。

サックスの音はエフェクトで加工され、シンセのようなサウンドも、
どうやらサムのサックスで鳴らしているようです。
エレクトリック・パーカッションのエレクトロニックなサウンドを含め、
音色こそいかにもエレクトリックなのに、演奏は人力であることを、
強烈に感じさせるところが、この音楽がまぎれもなくジャズであることを示しています。

アンビエントでもエレクトロでもない、まさにジャズを感じさせる存在感は、
ジャズをいったん解体して、再構築したサウンドだからこそ生み出せたものでしょう。
それでいながら、スタンダードのメロディをストレートに演奏する居心地の悪さは、
アルバムを聴き終えた後も、強烈な違和感として残ります。
悪趣味なジャケットのアートワークといい、
この奇妙なスタンダード集の気持ち悪さは、ダサさを平然と引き受けて、
精巧な音像で提示してみせる異能にあり、ということなのでしょう。
キーファーに次いで驚かされた、ロス・アンジェルスの異才です。

Sam Gendel "SATIN DOLL" Nonesuch 075597922158 (2020)

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