ブリティッシュ・トリニダーディアンの詩人で小説家のアンソニ・ジョゼフは、
ブリティッシュ・レゲエのダブ・ポエトリーで知られる
リントン・クウェシ・ジョンソンと肩を並べる、カリブを出自とする社会運動家です。
スパズム・バンドを率いた初期のアルバムでは、アヴァンギャルドなアフロ・ジャズをやり、
ミシェル・ンデゲオチェロがプロデュースした14年のソロ作では、
ギル・スコット・ヘロンをホウフツとさせる、
アフロビートからスピリチュアル・ジャズを横断したサウンドを聞かせていました。
これまで気になりつつも、横目に見てるだけの人だったんですが、
18年にこんなスゴイ作品を出していたとは、知りませんでした。
自身のルーツであるトリニダードに軸足を置いたアルバムで、
トリニダード・トバゴの首都ポート・オヴ・スペインで、
現地のミュージシャンたちを多く迎え入れて、レコーディングしています。
リリース当時に聴いていれば、間違いなく年間ベスト・クラスの傑作で、
なぜこれほどの作品が、話題にもならなかったんでしょう?
本作の前に、“CARRIBEAN ROOTS” というアルバムを14年に出していて、
スティールドラムのアンディ・ナレルを招いて、
カリブのルーツに立脚した音楽へ転身していたんですね。
いわば本作はその続編にあたるもので、トリニダードに直接乗り込み、
スティールドラムのカリスマ・プレイヤーで、
スティール・オーケストラのリーダーとしても名高い
レン“ブグジー”シャープをはじめ、ラプソの3・カナルにブラザーズ・レジスタンス、
グレナダ出身のトリニダーディアン・シンガーのエラ・アンダール、
シンガー・ソングライターのジョン・ジョン・フランシスなどが参加しています。
オープニングは、ヨルバ起源の海の女神、イエマンジャに捧げるチャントをする
エラ・アンダールをフィーチャーした‘Milligan’。トーキング・ドラムを絡ませて、
奴隷文化が育んだアフロ・カリブの古層にさかのぼってアルバムをスタートさせると、
続いてブグジーのスティールドラムをフィーチャーしたソカの‘Sans Souci’。
スティールバンドのエンジン・ルームと呼ばれる
パーカッション・アンサンブルのリズムがハジけまくります。
そして、政治意識の高いラプソのアーティストとの共演が続きます。
3・カナルをフィーチャーした‘Bandit School’ はPファンクとソカのミックス、
ブラザー・レジスタンスをフィーチャーした‘Dealings’ は、
アフロビートとソカのミックスでダブ・ポエットしたといった趣。
いずれもアンソニーとの相性は抜群ですね。
それにしても、3・カナルもブラザー・レジスタンスも久しぶりすぎて、ビックリですね。
彼らのCDをよく聴いていたのは、もう20年近くも前のことで、
以来まったく動静が伝わってこなかったけれど、ちゃんと現地では活躍していたんだな。
チャトニー(インディアン・ソカ)ふうの‘Jungle’ は、
トリニダードのインド系住民ばかりでなく、
イギリスのインド系移民も視野に入れたものでしょうか。
ちなみにこの曲は、アンソニーの娘のミーナ・ジョゼフが歌っています。
ホーンやストリングスも加えた贅沢な音作りで、
トリニダードの過去と現代を往来した一大音楽絵巻、聴き応えタップリです。
Anthony Joseph "PEOPLE OF THE SUN" Heavenly Sweetness HS185CD (2018)
3 Canal "HEROES OF WHA?" Rituals CO8106 (2001)
Brother Resistance "WHEN DE RIDDUM EXPLODE" Rituals no number (2001)