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70年代カリビアン・クロスオーヴァー ハリー・ベケット

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Harry Beckett  JOY UNLIMITED.jpg

へぇー、こんなレコードがCD化されるとは思わなかったなあ。
UKジャズの盛り上がりが、リイシューにも及ぶようになったんでしょうか。
ブリティッシュ・ジャズと呼ばれていた時代、
70年代のロンドンで活躍したトランペット奏者、
ハリー・ベケットの75年作がCD化されました。

Chris McGregor’s Brotherhood of Breath.jpg   Mike Osborne  OUTBACK.jpg

ぼくにとってハリー・ベケットといえば、
クリス・マグレガーのブラザーフッド・オヴ・ブレスでの活躍が、
真っ先に思い浮かぶところ。
南ア出身のトランペット奏者モンゲジ・フェザとハリー・ベケットは、
このビッグ・バンドの二枚看板のトランペッターでした。
そして、同じくブラザーフッド・オヴ・ブレスのメンバーだったアルト・サックス奏者、
マイク・オズボーンの70年作“OUTBACK” でのハリーの激烈なプレイも忘れられません。

そんなモーダルからフリーまで自在の、
先鋭的なミュージシャンというイメージが強いハリー・ベケットですけれど、
本作はそうしたイメージを大きく裏切る異色作です。
ハードコアな側面を封印した、ポップなクロスオーヴァー作なんですねえ、これが。

ベースがせわしなくトレモロするリフにのせて、キャッチーなテーマを持つ
オープニングの‘No Time For Hello’ からして、いつものハリー・ベケットとは大違い。
ぱあっとまばゆい陽の光が広がるサウンドに、意表を突かれます。

ずいぶん後になって知ったんですけれど、
ハリー・ベケットはバルバドス出身のミュージシャンだったんですね。
近年ではリアーナ、シャバカ・ハッチングスの出身国として、
急に通りが良くなったバルバドスですけれど、
トリニダード・トバゴの隣国で、同じ英連邦王国ということもあり、
文化面でも共通する両国、音楽面の共通項といえば、カリプソ。

本作では2曲目の‘Glowing’が、もろにカリプソのメロディなんですが、
ドラムスのリズムがカリプソになっていなくて、ちょっと残念。
イギリス人ドラマーは、本場のリズムのニュアンスがわからなかったみたい。
でもそのあと、アクースティック・ギター一本を伴奏に吹いた
短い‘Changes Are Still Happening’ がチルなムードで、これがまたいいんだな。

Joe Beck  BECK & SANBORN.jpg

当時の硬派なジャズ・ファンには、思いっきり無視された作品ですけれど、
ぼくにとっては、ジョー・ベックのクドゥ盤と並んで愛聴したレコードでした。
(写真はアメリカCBSから出たリイシューCD)

そうそう、このレコードでは、主役のハリー・ベケットが霞むほど、
ギターのレイ・ラッセルが弾きまくっていて、
そんなところも、ジョー・ベックのクドゥ盤と似通ってたんですよねえ。
どちらも75年のレコードで、ジャズ・ロックからクロスオーヴァーに
移り変わりつつあった時代を象徴していました。

なーんて当時のニュアンスを知らない今の方が、
素直に受け止めてもらえそうなアルバムです。

Harry Beckett "JOY UNLIMITED" Cadillac SGCCD017 (1975)
Chris McGregor’s Brotherhood of Breath "CHRIS MCGREGOR’S BROTHERHOOD OF BREATH" Fledg’ling FLED3062 (1971)
Mike Osborne "OUTBACK" Future Music FMRCDO7-031994 (1970)
Joe Beck "BECK & SANBORN" CBS ZK40805 (1975)

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