ポーランドの人類学者ピョートル・チチョッキが、
マラウィ北部に暮らすトゥンブカ人の民間療法である
憑依儀礼のヒーリング・ダンス、ヴィンブザをフィールド・レコーディングしたアルバム。
マラウィ北部州ムジンバ県の中心地ムジンバで、
19年の5月から9月にかけて録音されたもので、
チチョッキが主宰するレーベル、1000Hz からリリースされました。
ヴィンブザを執り行うカヌスカ・グループは、3台の太鼓(ンゴマ)がリズムを主導し、
踊り手のベルトに付けられた金属やブリキ缶で作ったガラガラ、
それに手拍子がポリリズミックに装飾して、うねるような大きなグルーヴを生み出します。
コール・アンド・レスポンスする合唱とンゴマのリズムが
いっそう激しさを増すところなど、精霊が踊り手に憑依した瞬間なのでしょう。
そんなヴィヴィッドな様子がサウンドから、びんびん伝わってきます。
ンゴマの響きにノイジーなサワリ音がまじっているのは、
コンゴ、ルバ人のビビり太鼓、ディトゥンバと同じ、
ノイズ発生装置が付いているからかもしれません。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-12-12
ヴィンブザは、キリスト教を信仰する地元住民から悪魔的な邪教として扱われ、
忌み嫌われています。昔ながらの恥ずべき遺物で、悪魔祓いの対象にすら
なっているのですが、その一方で、キリスト教会の牧師が、夜になると人目を忍んで、
ヴィンブザが行なわれる小屋に、薬を求めてやってくることもあるそう。
こうしたアンビヴァレントが存在する一方、ヴィンブザは、
ユネスコの世界遺産に民間医療の項目で登録されてもいます。
治療師のドクター・カヌスカは、ムジンバ北部の山村で尊敬される存在だそうで、
婦人病の治療を専門に、産科病院の建設も計画しているそうです、
カヌスカのグループは、彼女の5人の子供のうちのゆいいつの生き残りのトーマスに、
孤児となった甥のマクレインがンゴマを叩いていて、
カヌスカの患者やその家族などが参加して、
カトコレ村のチパンガノ教会の聖歌隊がサポートしています。
トランシーなリズムとキャッチーなメロディという取り合わせは、
存外に親しみやすさがあって、これは、ひと晩中続く儀式のなかから、
音楽的な聴きどころをキュレーションした、チチョッキの手柄といえそうです。
ヴードゥー、サンテリーア、カンドンブレなどの音楽に特に親しんでいない人でも、
太鼓音楽好きなら、ソッコーとりこになることウケアイのアルバムです。
Doctor Kanuska Group "MUTENDE MIZIMU" 1000HZ CD011 (2020)