もう一人見つけたアンゴラの才能。
ガブリエル・チエマは、センバやキゾンバではなく、
チョクウェ人の音楽チアンダをベースにするシンガー・ソングライターです。
コンゴ民主共和国と国境を接する、アンゴラ内陸部のルンダ・スル州のダラで
66年に生まれ、18歳でFAPLA(アンゴラ解放人民軍)に入隊してからギターを覚え、
音楽を志したという経歴の持ち主。
兵役期間中に音楽祭で受賞するなどの功績が認められてプロのミュージシャンとなり、
90年の除隊後にソロ活動を開始し、98年に初アルバムを出します。
05年には、愛知万博(愛・地球博)で来日したそうです。
今回入手したのは、2作目の08年作と3作目の13年作。
まず2作目の“AZWLULA” を聴いて驚いたのは、その洗練された音楽性。
ジャズ系ミュージシャンを起用したスムースな演奏とメロウなサウンドは、
広くポップス・ファンにアピールする力があり、
これを世界に向けて売り出さないで、どうするよ、ホントに。
アレンジは、ルアンダ出身のピアニスト、ニノ・ジャズが全曲担当。
フィリープ・ムケンガとの仕事などでも知られる、
MPA(アンゴラのポップス)の若手プロデューサーとして活躍する人ですね。
チョクウェの伝統音楽であるチアンダの影を見つけるのが難しいほど、
ソフィスティケイトされた音楽に塗り替わっているものの、
南部アフリカらしいメロディには、ガブリエルのルーツがしっかりと刻印されています。
美しいボレーロの‘Salsa Pa Bó’ で、カーボ・ヴェルデ系シンガー・ソングライターの
ボーイ・ジェー・メンデスとデュエットしているほか、アフリカン・ネオ・ソウルと呼びたい
‘N´gunay’ の仕上がりにはトロけました。
3作目の“MUNGOLE” は、前作の路線を推し進めて、
さらにコンテンポラリー度をあげた作品となっています。
このアルバムでは、ニノ・ジャズのほか3人のアレンジャーを起用して、
ガブリエルのメロディ・メイカーとしての才能をうまく引き出していますね。
コンテンポラリーにしても、無国籍なサウンドになっていないことは、
ルンバの‘Itela’ が証明していますよ。
アフリカン・ポップスを意識せずとも聞くことのできるクオリティの高さは、
インターナショナルなマーケットで勝負すべき作品だよなあ。
アンゴラのミュージック・シーンのマーケティング力の弱さが残念でなりません。
ウルトラ・モダンにしたガブリエルのチアンダを、世界に向けて届けてほしいなあ。
リシャール・ボナのファンには、聞き逃さないでほしい人です。
Gabriel Tchiema "AZWLULA" Kriativa KR010 (2008)
Gabriel Tchiema "MUNGOLE" Nguimbi Produções GTCD03 (2013)